側の前から十番目ぐらいのところにいたので、五年生に顔を見られる心配は比較的少かったが、それでもひとりでに頭が下っていた。で、もし、そんな狂気じみた状態が、そう長くつづかなければ、べつに大したこともなしに済んでいたかも知れなかったのである。
 ところが、その獰猛な顔が引っこんだらしいと思うと間もなく、今度は癇《かん》の強い声が指揮台から聞え出した。新入生たちはちょっと顔をあげてその声の主をぬすみ見た。それは凄いほど眼の光った、青白い狐みたいな額の男だった。この男は、いかにも皮肉な調子で、ゆっくり、ゆっくり、新入生に難癖をつけはじめた。そして前の獰猛な顔の男とはちがって、地曳網の連中の声援があるごとに、それがひととおり終るのを、一種の余裕をもって待っているかのようであった。
 そのうちに時間は三十分とたち、四十分とたって行った。次郎は次第にいらいらして来た。そしてたまらないほどの憎悪の念が腹の底からこみあげて来るのを覚えた。それでも、歯を食いしばって我慢していたが、指揮台の狐は、新入生を見渡しながら、つぎつぎにいろんな難癖の種をみつけ出して、いつまでもねばっていた。そして、しまいには、とり
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