始末になったんだと、あたしは思うのだよ。そりゃあ、悪かったのはあたしさ。あたしの育てようが悪かったればこそ、御先祖からの田畑を売りはらって、こんな見すぼらしい商売を始めるようなことにもなったんだろうさ。だから、あたしは、罪ほろぼしに、孫だけでもしっかりさせたいと思うのだよ。それがあたしの仏様への……」
 お祖母さんは、袖を眼にあてて泣き出した。俊亮は、恭一と俊三とが、まん前にきちんと坐って、いかにも心配そうに自分を見つめているのに気がつくと、さすがにたまらない気持になったが、あきらめたように大きく吐息をして、店の方に眼をそらした。
 その瞬間、彼は、はっとした。一尺ほど開いたままになっていた襖《ふすま》のかげから、次郎の眼が、そっとこちらをのぞいていたのである。次郎の眼はすぐ襖のかげにかくれたが、たしかに涙のたまっている眼だった。
「次郎!」
 俊亮は、ほとんど反射的に次郎を呼び、
「さあ、行くぞ。」
 と、わざとらしく元気に立ち上った。そしてマントをひっかけながら、
「じゃあ、恭一、万年筆はせっかくお祖母さんに買っていただいたんだから、大事にしとくんだ。」
 それから、お祖母さんの方
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