いつも発揮して来たところで、いわば彼の本能であった。しかし、この場合、その中身は、以前のそれとはずいぶんちがっていた。この場合の彼には、すこしもずるさがなかった。自分を安全にするために策略を用いようとする気持などは、微塵も動いていなかった。彼はただ無意識のうちに真実を見、真実を聞き、真実を味わっていたのである。
 なるほど、彼の心のどこかには、お祖母さんに対する皮肉と憐憫《れんびん》との妙に不調和な感情が動いていた。また、自分のこれまで持っていなかった、ある尊いものを、恭一の言葉や態度に見出して、単なる親愛以上の高貴な感情を、彼に対して抱きはじめていた。しかし、そうしたことのために、真実が、次郎のまえに、少しでもその姿をゆがめたり、曇らしたりはしていなかったのである。いな、かえって、真実をはっきり見、聞き、味わった結果として、そうした感情が彼の心に動きはじめていたといった方が本当であろう。
「運命」と「愛」と「永遠」とは、こうして、いろいろの機会をとらえては、次郎の心の中で、少しずつおたがいに手をさしのべているかのようだった。だが、次郎はまだ何といっても少年である。「永遠」は見失われや
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