。
彼は、正木のお祖母さんといっしょに、よくお墓|詣《まい》りをした。お墓の前にしゃがむと、彼は拝むというよりは、じっと眼をすえて地の底を見|透《とお》そうとするかのようであった。彼は、母の屍体が日ごとにくずれて行っているなどとは、微塵《みじん》も思いたくなかった。彼が地下数間のところに想像するものは、いつも、ほのかな光のなかにうき出した大理石像のようなものだった。この大理石像は、お墓詣りがたび重なるにつれて、いよいよ鮮明になって行った。しかも、不思議なことには、その顔は、彼の記憶に残っている母の顔そのままのものではなかった。それは、もっと美しい、神々しい顔だった。やや伏眼に半眼にひらいた眼つきには、どこかに観音さまを思わせるものさえあった。
次郎は、学校の綴方の時間に、このごろ感じたことを何でもいいから書け、と先生に言われて、「地下に眠る母」という題で、お墓詣りのおりのこうした感じを、そのまま書いて出した。すると、そのつぎの綴方の時間には、先生は、みんなのまえでそれを朗読したあと、黒板の横の壁にピンで貼り出した。題のうえには三重圏が朱で大きく書いてあり、文末には、
「先生も思わず
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