して、父さんは僕を偉いって言ったんだい。」
「そりゃあ、あの時、坊ちゃんがあんまりおかわいそうでしたからですわ。」
「でも、恭ちゃんも、僕に負けたって言ったんじゃないか。」
「坊ちゃんは、どうしてそんなにお人よしにおなりでしょうね。恭さんだって、やっぱり坊ちゃんをかわいそうだと思って、取りなして下すったんですわ。」
「だって、乳母やも、あの時は喜んでいたんじゃないか。」
「喜んでなんかいませんわ。あたし、癪で癪でならないでいた時に、お父さんが、ああ言って、お祖母さんやお母さんの鼻をあかして下すったのが、ありがたかっただけなんですわ。……坊ちゃんは、何てじれったいお気持でしょうね。」
 お浜は、そう言ってため息をついた。
 次郎は、自分とお浜との気持のへだたりが、あまりにも大きいのに驚いた。
(いつの間に、二人はこんなにちがって来たのだろう。以前は、乳母やの気持と自分の気持とがべつべつであったことなど、一度もなかったのに。)
 彼はそう思わないではおれなかった。そして、はっきりとではないが、母が亡くなった頃のこと、入学試験にしくじったあとのこと、いよいよ中学にはいってからのこと、と、つぎつぎに考えて来て、やはりこの二年ばかりの間に、自分が次第に伸びて来たのだ、という感じを深くした。しかし、最後に、
(もし乳母やの来るのが、今日でなくて昨日だったとしたら、どうだろう。今度の母さんのことを、さっきのように乳母やが悪く言うのを、自分は、果して、味方を得たような気にならないで聞いていられただろうか。)
 と、考えた時に、彼は今更のように、きょうの学校での出来事を思いおこし、何か厳粛な気持にさえなるのだった。
 同時に、彼は、お浜が自分を意気地なしだと言って、一途に腹を立てているのが、あわれに悲しいことのように思えて来た。
「乳母や――」
 と、彼は、お浜の方に手をのばして、その腕を握りながら、
「乳母や、おこってる?」
「…………」
 お浜は返事をしないで、またため息をついた。
「乳母やは、僕が可愛いんだろう。」
 次郎に握られたお浜の腕が、ぴくっと動いた。しかし、やはり返事がない。
「ね、可愛いんだろう。ちがう?」
「坊ちゃん――」
 と、お浜はいきなり次郎を自分の方に引きよせて、
「坊ちゃんは、どうしてそんなことを乳母やにおききになるの?」
「ほんとうに可愛いんなら、僕、
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