、自然その娘も気位が高くなるものでね。このお祖母さんは、お前たちのお母さんでどれほど苦労をしたか知れやしないよ。」
これが、何かにつけ、お祖母さんの言いたがることだった。また、
「気がきつくて、素直でないところは、次郎がお母さんそっくりだよ。恭一なんかお母さんにはちっとも似ていないがね。」
などとも言った。これには、はたで聞いていた恭一も、いやな顔をした。次郎はなおさらいやだった。自分が悪く言われるのは、慣れっこになっていて、もうさほどには腹も立たなかったが、彼にとっては神聖なものになりきっている母が少しでも傷つけられることは、何としてもたえがたいことだった。
彼は、しかし歯噛みをしてそれをこらえた。こらえなければ、一層母が悪者になるような気がしたのである。
彼が本田に行きたがらない理由は、正木一家にも、むろん、よく解っていた。で、正木のお祖父さんは、最近しばしば俊亮にそのことを話して、次郎が中学校へ入学したあとの始末について、十分考えてもらうことにした。しかし、俊亮はその話になると、いつもため息をつくだけだった。
寄宿舎に入れる手もあり、また、少しは無理でも正木の家から自転車で通わせるという方法も考えられないではなかったが、いずれにせよ、近くに自家《うち》があるのにそんなことをしては、ますます次郎をひがましてしまうのではないか、という心配が俊亮にはあった。実は、次郎本人が知ったら、その方をどのくらい望んだか知れなかったのだが、俊亮としては、そのことについて次郎の気持をきいてみることさえ、よくないことのように思われるのだった。それに、商売の方も、不慣れなために、とかく手ちがいだらけであり、次郎のために特別の支出でもすることになれば、それこそお祖母さんが默ってはいまいし、正木から通わせることにすればその方の心配はないとしても、世間の思わくというものを、元来そんなことにはわりあい無頓着《むとんちゃく》な俊亮も、さすがに無視するわけにはいかなかったのである。
(いっそ養子にでもやってしまおうか。)
俊亮は、ふとそんなことを考えてみたこともあった。しかし、それは、彼の良心、――というよりは、彼の次郎に対する愛情が許さなかった。
彼は、次郎を見ると、このごろ涙もろくさえなっていたのである。
この問題は、実を言うと、お民の葬式がすむとすぐから、ないない誰の気にも
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