自分から離れて行くのだろう。
彼の心には、お浜に別れた時のかすかな記憶があらたに甦って来た。その時のこまかな事実は、もう大てい忘れているが、言いようのない淋しさのために、地の底にでも吸いこまれるように感じたことは、今でもはっきり覚えている。その感じが再び彼の胸にうずきはじめた。むろんその頃とは年齢もちがうし、お浜と春子との彼に対する関係が同じでないことぐらいは、よくわかっている。春子はただ友達の姉というに過ぎない。薬を貰いに行くたびにどんなに親しみをましていようとも、お浜に期待したものを春子にも期待していいとは決して思わない。道理の上では、それは十分納得のいくことである。しかし、それにもかかわらず、春子に対する彼の気持の上での期待は、お浜に対するのとあまり変らない。否、それが当面の生々しい問題であるだけに、遠い過去のそれよりも一層痛切であるとさえいえる。お浜はいわばもう絵に描いた乳母である。それがものを言わないのは淋しい。しかし、その淋しさは諦めのつく淋しさである。思い出してその絵を見る時だけの淋しさである。忘れていることも出来る淋しさである。期待と名のつくほどのものが彼の心に動くに
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