、こうした声が、一座の中から聞えて来ようものなら、次郎はいよいよ嬉しくなって、あくまでも頑張りつづけようとするのであった。
ただ、次郎にとっての困難は、灰汁入れの瞬間だった。この大事な瞬間になると、さすがに彼の細腕では、どうにもならなかった。で、彼は、その時になると、いつも隣の誰かに擂古木を廻して貰うことにした。しかし、それは決して彼の恥辱にはならなかった。と、いうのは、ごく年上の婆さんたちや、若い娘たちの中にも、次郎と同じように、灰汁入れの時に人手を借りる者が、必す何人かは居たからである。
次郎の野外における楽しみも、屋内のそれに劣らず、変化に富んでいた。彼は、男衆に教わって、天竺《てんじく》針をかけることや、どうけ[#「どうけ」に傍点]を沈めることを知った。日暮にかけておいた天竺針には、朝になるときっと鰻《うなぎ》や鯰《なまず》がかかっている。どうけ[#「どうけ」に傍点]というのは、舌のついた目のあらい竹籠の底の部分に、焼糠《やきぬか》をまぜた泥をぬり、それを、この附近によくある溜池の浅いところに沈めておいて、鮒や鯉を捕るのであるが、これも日暮に沈めておくと、朝には大てい獲物が
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