見ていたが急にわれにかえって、
「そうか。うむ。それでいい。それでいいんだ。……なあに、町までは、たった四里しかないんだから、わけはない。土曜から泊りに行くんだな。」
 正木のお祖父さんは、その場の気まずい空気をふり払うように、つと立って縁に出た。
「おお、いい月じゃ、お茶でも入れかえて貰おうかな。」
 正木のお祖母さんは、顔を畳にすりつけるようにして、座敷から空をのぞいていたが、
「そうそう。今夜は、ちょうど十五夜でございましたよ。」
「あら。すると次郎の誕生日ですわ。あたし、かまけていてすっかり忘れていましたの。」
 と、お民がいそいそと立ち上って、月を見た。すると、本田のお祖母さんが、
「私、気づかないでもなかったんだがね。こちら様で、そんなことを言い出すものでもないと思って。」
 それでまた、あたりが変に気まずくなった。次郎は、しかし、もうその時にはそこにはいなかった。彼は、彼が物ごころづいて以来、しばしば聞かされてきた、「八月十五夜」が、ちょうど今夜だということなど、まるで思いつきもしないで、遠慮深そうにしている恭一や俊三を尻目にかけながら、わが物顔に庭をあちらこちらと飛びま
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