拳を握って振り上げた。しかし、その姿勢はむしろ守勢的で、眼だけが鼬《いたち》のように光っていた。
「竜ちゃん、帰ろう。」
 次郎は、平気な顔をして竜一の方を向いて言った。
 竜一は、まだその時まで、蝗を一疋手に握ったまま、ぽかんとして二人を見ていたが、次郎にそう言われると、すぐそれをなげすてて、
「僕んところに遊びに行く?」
「うむ、行くよ。」
 二人はすぐあるき出した。あるきながら、竜一は、自分の胸にくっついている蝗の首をはらい落した。
「覚えてろ! 竜ちゃんも覚えてろ!」
 由夫は無念そうに二人を見送りながら、何度も叫んだ。

    二四 乱闘

 ひえびえと薬の匂いのする薬局の廊下をとおって、突きあたりの土蔵の階段を上ると、そこが子供部屋になっている。一方の壁には何段にも棚が取りつけてあって、絵本や、玩具が、一ぱいのせてある。すこし暗いが、わりに涼しい。
 次郎は竜一とよくこの部屋で遊ぶ。このごろ彼の遊び相手は、ほとんど竜一だけだと言ってもいいくらいだが、それは竜一に親しみがあるからというよりも、むしろこの部屋が好きだからである。戸外での乱暴な遊びの代りに、本を読んだり、絵を描
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