な、悲壮な気分になった。
「わあっ!」
突撃がはじまったらしく、廊下を狂暴に走りまわる音がきこえた。しかし、間もなく誰かが叫んだ。
「おい! 次郎ちゃんがいないぞ。」
「ほんとだ。どうしたんだろう。」
「戦死したんか。」
「馬鹿いえ。」
「弾丸を取りに行ったんだろう。」
「そうかも知れん。」
「おうい、次郎ちゃん!」
「じーろーちゃん!」
みんなが声をそろえて叫んだ。次郎は、しかし、彼らに答える代りに、そっと床下にもぐりこんで、息を殺した。
かなり永い間、次郎の捜索が続けられた。最後に、みんながどやどやと校番室に這入って来た。
「いないや。」
「馬鹿にしてらあ。」
「もう次郎ちゃんなんかと遊ぶもんか。」
「そうだい。」
「怪我したんじゃないだろうな。」
「そんなことあるもんか。」
「帰ろうや、つまんない。」
「馬鹿言ってらあ、これから、新しい学校に行くんだい。」
「そうだ、次郎ちゃんも、もう行ってるかも知れんぞ。」
「そうかも知れん。早く行こうよ。」
「行こう。」
「行こう。」
みんなが去ったあと、次郎は、荒らされきった校舎の中を、青い顔をして、一人であちらこちらと歩きまわった
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