ておくれ!」
 お祖母さんは、今にも息の切れそうな声で叫んだ。次郎は、その間にはね起きて、毬のように座敷をぬけると、再び庭に飛び出した。
 しかし、そこには、俊亮が默然《もくねん》と腕組をして立っていた。次郎は、彼と眼を見あわせた瞬間に、急に身動きが出来なくなってしまった。
「次郎、父さんについて来い。」
 次郎は、おずおずと父のあとに従った。間もなく、二人は二階の暗い一室に向かいあって坐っていた。
 俊亮は、しかし、坐っているだけで一言も言葉を発しなかった。次郎は、はじめのうちは、もじもじと膝をを動かしていたが、とうとうたまらなくなって泣き出した。すると俊亮もそっと自分の眼をこすった。
 小一時間もたったあと、二人は二階から降りて来たが、俊亮の恐ろしく緊張した顔を見ると、お祖母さんもお民も、お互に顔を見合わせただけで、何も言わなかった。

    一九 校舎移転

 学校の校舎が古くて危険だという話は、町の人達の間に、大分前から話しあっていたが、やっとこの頃になって新築工事が始まった。場所は現在の校舎から三四丁も離れた川端であった。川には欄干《らんかん》のついた大きな板橋がかかってお
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