のでございましょうか。」
正木の祖父――「左様。はっきり、そう言って居ります。」
本田の祖母――「まあ、まあ、厚かましい。……そして、何でございましょうか、本人に何か考えでも……」
正木の祖父――「本人には、考えというほどのこともありますまい。何しろ、まだ子供のことでしてな。」
本田の祖母――「でも、訳もなしに、こちら様にご迷惑をおかけ致しましては、私共といたしまして……」
正木の祖父――「いや、わけはあります。つまりその……いつかもお宅で申しました通り、わしが当分預かってみたいのでしてな。はっはっはっ。……それとも、わしの考え通りにはさせんとおっしゃるかな。」
正木のお祖父さんの声も、次第に高くなって来た。
本田の祖母――「いいえ、滅相《めっそう》な。わたくし、そんなつもりで申しているのではございません。それはもう、貴方様のお手許で躾《しつ》けていただけば、何よりでございましょうとも。でも、私の方から申しますと、あれも同じ孫でございますし、一人残して置いて、変にひがみましてもと存じましたものですから、ついその。ほ、ほ、ほ。……お民さん、どうだね、せっかくああおっしゃって下さるんだから……」
お民――「ええ、でも、今度は、あたし、ほんとにあの子にすまない気がしてならないんですの。永いこと里子にやったり、置きざりにしたりしたんでは、一生親とは思われないんじゃないかしら、などと考えたりしまして……」
お民の声は、いつになく、しんみりしていた。
次郎は、思わずうしろをふり向いた。すると、ぱったりと俊亮の眼に出っくわした。俊亮は、さっきから彼を見ていたものらしい。
次郎は、うろたえて眼をそらすと、すぐ立ち上って一人で庭に下りた。素足《すあし》でふむ飛石がひえびえと露にぬれていた。
「次郎ちゃん、どこへ行く?」
他の子供たちがじゃんけん[#「じゃんけん」に傍点]をやめて、つぎつぎに飛石をつたって、彼のあとを逐った。次郎は、池にかけてある石橋の上まで来ると、立ち止まって、うしろをふり向いた。
「綺麗《きれい》だぜ、月が。」
彼は水を指さしてそう言ったが、眼は庭木をすかして座敷の方を見ていた。座敷では、四人がまだ額を集めて話しこんでいる。
子供たちは、それから、池に小石を投げたり、樹をゆすぶったり、唱歌をうたったりして、遊んだ。次郎もいつの間にか、彼らと一緒になって
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