る。
一六 土橋
次郎は、それ以来、学校の往復に俊三のお伴をすることを、断じて肯んじなかった。
そのことについて母が何と言おうと、彼はろくに返事もしなかった。朝になると、わざとのように、みんなのいるまえを通って、一人でさっさと学校に行った。帰りには、きまって道草を食った。ただ以前とちがったところは、夕飯の時間までには、不思議なほどきちんと帰って来ることだった。
しかも彼は、母や祖母に尻尾をおさえられるようなことをめったにしなくなった。彼は、父の前では相当喋りもし笑いもしたが、一たいに家庭では沈默がちであった。恭一や俊三に対してすら、自分の方から口を利くようなことはほとんどなかった。そして何かしら、すべてに自信あるもののごとく振舞った。それがお祖母さんの眼にはいよいよ憎らしく見えたのである。
お民は、さすがに、お祖母さんよりもいくらか物を深く考えた。しかし、考えれば考えるほど、次郎をどうあしらっていいのか、さっぱり見当がつかなくなって来た。そして、おりおり俊亮にしみじみと相談を持ちかけるのだった。
「今のままでいいんだよ。お前たちは、どうもあれを疑《うたぐ》り過ぎていかん。」
俊亮の返事はいつもこうだった。しかし、彼とても、次郎のほんとうの気持がわかっているわけではなかった。
次郎の眼には、正木の家で見た若い地鶏が、いつもちらついていた。しかし彼は、機会を選ぶことを決して忘れなかった。めったなことで兄弟喧嘩をはじめて、また父に煙管でなぐられたりしてはつまらない、と思ったのである。その代り、これなら大丈夫だと思う機会さえ見つかれば、母や祖母がどんなに圧迫しようと、今度こそは死物狂いでやってみよう、という決心がついていた。
ところで、そうなると、思うような機会はなかなかやって来ない。それに、誰もが、このごろの彼に対して、以前とはちがって警戒の眼を見張っている。恭一や俊三は、お祖母さんの差金《さしがね》もあって、めったに彼のそばによりつかない。みんなが遠巻きにして彼を見まもっているといったふうである。彼は多少手持無沙汰でもあり、癪でもあった。しかし、それならそれでいい、とも思った。そして相変らずむっつりしていた。
梅の実が色づくころになった。
彼は、例によって、学校の帰りに五六人の仲間と墓地で戦争ごっこをはじめていた。そこへ、おくれて馳せつけた
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