青春の殘る色香を惜みながら、跣足でしづ/\親族どもに伴はれて火に入らんとする刹那は、如何に鐵心石腸のものでも、正視すらするに堪へぬ光景であると想像せらんるが、習俗の力と云ふものは、えらいもので火の中に身を投ずる女子を見て、これを稱揚し、最後の一段となつて、ためらうときは、親族どもは一族の恥辱であるから、暴力を以て火の中につき落すことすらあるとの話である、よもやと思ふが、古往今來大抵の國の昔には、類似の習俗があつたことから推すと、あり得べきことゝ思ふ、今は英國の支配の下にある印度の部分では、かゝる陋習を嚴禁して居るさうであるが、なほ郷黨の譽を買はんため、僻陬の地、官憲の力の及ばぬ地方では時々かゝることが行はるゝとの事である、印度は大國であると同時に古國である、古國とは喬木あるを云ふのでない、古代の文献の徴すべきが殘て居る意義である、印度で一番舊い文献と云へば吠陀經で、中にも梨倶《リグ》吠陀と云ふのは一番舊いとのことである、「サティ」即ち夫に殉死する女のことは印度の學者に云はせると梨倶《リグ》吠陀中の讚誦第十卷、第十八章の七に根據を有して居ると云ひ英國の學者「ウイルソン」は其の曲解に基くこ
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