Pierre Philosophale
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)併《しか》し
〔〕:アクセント分解された欧文をかこむ
(例)〔Pie'rre Philosophale〕
アクセント分解についての詳細は下記URLを参照してください
http://aozora.gr.jp/accent_separation.html
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小心で、そして実直に働いて来た呂木が、急に彼の人生でぐずりはぢめたのは三十に近い頃であつた。少年のころ見覚えのある景色で、もう長いこと思ひ出さずにゐたのだが、一つの坦々とした平野を夜更けの壁にひろびろと眺めた。古い絵本と静かな物語を思ひ出した。その頃から、働くのが厭だといふのではないが、――いはば、何かしら、そして何かがつまらないと思つたりした。彼はときどき五分ばかり目を瞑つて、そして何も考へてゐなかつた。こうして、併《しか》し自分ではそんなことに気がつかずに、又数年間自分としては実直に働いた。
彼はくびをきられた。気がつかないうちに、ひどく疲れてしまつた自分を、その時やうやく、そして記憶のやうな遠さの中に発見し
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