剽逸自在、横行闊歩を極めるもので、あまりにも専門化しすぎるために、かなり難解な文学に好意を寄せられる向きにも、往々、誤解を招くものである。
尤も、専門化しすぎるからと言つて、難解であるからと言つて、それ故それが、偉大な文学である理由には毫もならないものである。スペシアリテの埒内に足を置く限りは、よし大衆的であれ、将又貴族的であれ、さらに選ぶところは無い筈である。(尤も拙者は、断乎として、断々乎としてファルスは難解であるとは信じません!)それはそれとしておいて、扨て――
一体が、人間は、無形の物よりは有形の物の方が分り易いものらしい。ところで、悲劇は、現実を大きく飛躍しては成り立たないものである。(そして、喜劇も然り)。荒唐無稽といふものには、人の悲しさを唆る力はないものである。ところがファルスといふものは、荒唐無稽をその本来の面目とする。ところで、荒唐無稽であるが、この妙チキリンな一語は、芸術の領域では、さらに心して吟味すべき言葉である。
一体、人々は、「空想」といふ文字を、「現実」に対立させて考へるのが間違ひの元である。私達人間は、人生五十年として、そのうちの五年分くらいは空想
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