キアップをして、中には着物を洋装に着代え靴まではきかえて出てくるのがある。
 若い男は大半背広に、頭にポマードを壁のように光らせて、云い合したように頸《くび》にマフラーをまいている。
 劇団の女優や踊り子たちが、疲れていますからお先に失礼と若い団員にまもられて帰って行くのを、村の青年たちは、ヨウ色男、うまくやってやがんナ、喚声をあげて窓から見送る、娘たちまで、ワーイ、おたのしみ、チェッ、やかせやがら、戦争中軍需工場でみんな半可通の都会ぶりを身につけている。
 ジャズバンドと一緒に劇団の団長夫婦が居残って、苦々しげにダンスパーテーを見ていたが、
「どこの村もこんなものですか」
 貞吉が話しかけると、昔はケンカで売ったような、五十がらみの六尺ちかい精悍な団長が意外に恐縮して、
「いや、どうも、御時世です。ところによって違いがありますが、まア、だいたいは、こんなものですなア。平地の方じゃ普通ですが、山地では、こゝは珍しい方でしょうな。私ども元々春から秋までは在方の百姓ですが、然し、この一座を組織してから、私が二代目の団長で、かれこれ三十年ちかくなります。昔は私どもが農村のヤクザのように言われ
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