、迫力ある実体を感じさせられるのであった。
 なに、たかゞ、女なんだ、彼は時々、そう思った。
 そして彼は衣子を意識するたびに衣子をつき放し、彼自身の土民の感情をなつかしんだ。
 そして彼は小学校のダンスパーテーで踊った炭焼の娘を探しだして、ビルマのジャングルをそっくり日本へうつしたような土民のあいびきでもやろうと考えていた。
 彼は翌朝、さっそく炭焼きの部落の一つへ行ってみた。そこを歩きまわり、炭焼の山の方へも行きかけてみたが、娘の姿を見かけることは出来なかった。
 その翌日、彼はちっとも懲りず、別の炭焼き部落へ行ってみた。
 すると山道の泉の下へバケツ一ぱいの洗濯物をもち出してジャブジャブやっている女を見たが、それがお園であると分ったときには、彼も思わず立ちすくんでしまった。
 その山道のふちにある荒壁にコッパをふいて石をのっけた廃屋のような農家を、
「お前はこゝへお嫁にきたのか」
「いゝえ、私の生れたうちでございます」
 お園は笑ったが、あかるく澄んだ顔であった。彼と二つ違いだから、今年は二十七であろう。昔は可愛く、小さく、クリクリしていたが、今は健康な、土の命をうつしたような逞
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