こゝにいる気か」
貞吉がそうきいても、
「先のことは分らないわ。今にどうにか、なるでしょう。成行にまかせているのよ」
と答えて、平然たるものであった。
「オレはそのうちヤミ屋を開業するから、そのとき、お前、資本をかしてくれるか」
「なんのヤミ? 大ヤミ?」
「イヤ、小ヤミだよ。細々と食うだけのことさ。オレには仲間もなければ、然るべきツテもないから、まア、リュックをかついで汽車で往復する、一番しがないヤミ屋だ。この村に間借りをして、そこを本拠にして、東京と往復してもできるじゃないか。戦争に負けると便利なものだ」
「そうね。わりあい便利な世の中だわね。私もタケノコで一人前にやってのけるのだもの。テイチャンが一人前のヤミ屋になったら、東京でくらすといゝわ。私もそのとき東京へ行って、何かするかも知れない」
「何をするんだ」
「まだ、分らないわ。何か、しなければ、ならないでしょう」
衣子の平然たる笑い顔は、まったく腹のわからない妙なものだった。何をやる気だろう。パンパンをやる気かも知れぬ。それぐらいのことは平然と考えかねないところもあるが、また何か、途方もないデッカイ夢をいだいているような
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