なくなって、万事都合がよろしい。
貞吉はたゞヘラヘラと変テコな笑い顔で、ウンともスンとも返事をしないから、正一郎は馬鹿な奴めという顔をして、
「なア、オイ、お前には分家分禄、そんなもの、ありゃせんぞ。御覧の通り、敗戦以来、地主は田地召しあげ、食う米はない、ヤミの米買う金もない、半年あとに新憲法、どっちみちお前を分家する必要もなし、分禄してやる必要もない。新憲法施行の日から、オヌシは独立の一家の主人、よその旦那だから、このウチから黙って出て行って貰う。分るだろうな。いゝも、悪いもない。承知、不承知もない。法の定めるところだ。だから、忠雄の五万円、お前が継ぐのが身の為だ」
「新憲法はいつからだね」
貞吉がきくと、正一郎は渋い顔を深めて、
「何の用がある?」
新憲法施行の前に、貞吉が訴訟を起すとでもカングッタ様子である。
「兵隊から帰ったばかりだから、新憲法が何だか、オレは何も知らんよ。いつから新憲法になるだね」
「来年の五月五日だ」
「なるほど。その日から他人だね。じゃア、それまでネバろうや」
「何をねばるんじゃ。入聟の返事か」
「居候のことさね。その日がきたら、出て行くことにしよう
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