た。それは後日織田信長がわがものとして完成し、それによって天下を平定した兵法であった。元祖は一文銭の油売りだ。
 その兵法の原理は単純である。最も有利な武器の発見とそれを能率的に使用する兵法の発見とである。
 それは兵法の一番当り前の第一条にすぎないけれども、とかく発見や発明に対する本当の努力は忘れられているものだ。そして常人の努力は旧来のものを巧みにこなすことにだけ向けられている。それは新しい発見や発明が起るまではそれで間に合うにすぎないものだ。
 まず彼が発見した有利な武器は、敵の物よりも長い槍であった。普通短槍で一間余、大身の槍で二間どまりのところであるが、彼は普通人の体力で三間、さらに三間半まで可能であると考えた。
 その長槍は丁々発止と打ち合うには不向きであったが、彼はその槍で打ち合うような戦争の方法を考えていなかった。
 野戦に於て、主力との正面衝突が行われるとき、両軍はまず槍ブスマをそろえて衝突するのが普通だ。そのとき、敵よりも長い槍の槍ブスマが敵の胸板を先に突き刺すにきまっている。
 さてその槍を再び構えて丁々発止とやれば今度は不利であるけれども、再びその槍を構える必要
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