はれて、夫婦が恋人に、恋人が複数の友達に変化するやうな一部の流行があつたけれども、為政家が人間性といふものに誠実な考察を払ふなら、これらのことは社会制度の根柢に於て考慮せらるべき重要な問題となるであらう。なぜなら人の真実の生活や幸福がそこに存してゐるからである。為政家が社会制度のみを考へて人間性を忘れるなら、制度は必ず人間によつて復讐せられ、欠点を暴露する。
 咢堂の世界聯邦論は人間の対立感情に就ての歴史的考察によつて基礎づけられて一応はかなりの重量を示してゐるが、個の対立に就てなんら着目するところがないのは彼が尚相当誠意ある人間通でありながら、真に誠実なる人生の求道家ではなかつたことを示してゐるものであらう。
 彼は人の虚飾を憎み、真実なる内容のみを尊重する人の如くでありながら、実は好んで大言壮語し、自らの実力の限定に就て誠意ある内省をもつてゐない。彼は政治の理論家であるが、実務家ではないのであつて、彼は大臣になつても決して立派な成績を上げることはできない。彼が今総理大臣になつたところで食糧問題が好転する筈もなく、他の総理大臣よりもましである見込みもない。之を文学にたとへれば、文学理
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