、どうする気なのよ。野郎! 三畳にすッこんでろ。こッちへ来やがると承知しねえぞ」
本当に立腹したらしく、オタツは肩で息をして凄んでいる。腕に覚えもある様子である。シシド君は三畳へリュックを下して、アグラをかいた。ドロボー君もそれ以上オタツを説得できないとみて、自分だけ六畳へ通り、にわかに面色蒼ざめてワナワナとふるえ、
「オメエ、オレの留守に男をくわえこんでいるな?」
「ナニ云ってんのさ、この人は」
「この靴ベラをみろ。これは誰のだ。これが土間に落ちてたからにゃア、男が上らなかったとは云わせねえぞ」
「知らないね。ここのウチは月に三度しか掃除しないから、十日分の物が落ちてるよ。一々覚えていられるかい」
「シラッパクれるな」
「よしなよ。私はお前の留守中には三度三度の御飯も一膳ずつケンヤクしているぐらいお前さんに惚れてるんだよ。よその男なんか、アブかトンボにしか見えないよ」
オタツが真実むくれているのは、本当にそう思いこんでいるからであろう。しかも、怒気を押えて、つとめて哀願の様子は、シンからドロボー君に惚れてる証拠だ。
ドロボー君、疑いが解けたわけではないが、証拠がなくては、どうにもならず。
「とにかく、酒と、晩メシのオカズを買ってこい。カツレツがいいな」
「そんなお金ないよ」
ドロボー君、渋々千円札を一枚渡した。オタツは買い物にでた。するとドロボー君の様子が変った。
★
長年きたえたドロボー業、手練のコナシ。ナゲシに手をつッこんで隠し物の有無をしらべる。押入れを開けて一睨み。はては米ビツのフタまでとって改める。
「オレの留守中に、男をくわえこんで、ヘソクリをためてやがるに相違ない。タダで身を売るような女じゃないから、どうしても、ヘソクリが……」
イライラと諸方をかきまわしている。そのとき、シシド君が声をかけた。
「オッサン。自分のウチでもドロボーするのかい」
寝耳に水。意外の声をかけられて、オッサン、ギョッとすくんでしまった。
「なんだってエ?」
「オッサン、ドロボーだろう」
「ウーム。テメエ、知ってやがったのか」
「目の前で実演するから見ただけさ」
「ウーム。意外なことを言うなア。オレが人相を見て外れたタメシはないはずだが。……すると、オメエもドロボーだな」
「よせやい」
「じゃア、ドロボーと知って、ついてきたのは、どういうわ
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