つた。さりとて私の印象の中に神秘的な影を宿して残るといつては余りにことが大袈裟すぎる。ありていを語れば、この婦人の人柄が甚だ私の好感に訴へるところがあるとはいへ、今語り得た以上にまで印象をまとめ、その気質や性格を突きとめる誠実なる情熱が私にとつては全く必要なものではなかつたのだ。
私はアトリヱの中に秋子、あぐり、木曾野等三名の姿を認め、明らかに当惑せずにゐられなかつた。こんな時に貴方達の顔なんて思ひだしたくもなかつたのにと私の心は呟いてゐたが、然し秋子を見出したことの名状すべからざる感動が、私を激しく混乱させ、それが私の当惑を深かめさせもしてゐたのだ。
「僕は帰へらう」と長平は尻込みしながら沈んだ声で呟いた。私はあらはに狼狽して激しい視線でたしなめるやうに長平を凝視めながら、「もう暫く。せめて夜がくるときまで一緒にゐてくれ」と哀願せずにゐられなかつた。確たる理由はないのである。宿酔の朝に全く同じ神経的な恐怖であつて、別れることがたまらなかつた。
「別室でお話したいことがあるのですけど」
女の群から木曾野が一人離れてきて私に言つた。二人は私の部屋へ這入つた。
「秋子さんのことなんで
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