、わけもなくただ無意識に訝つてみるそのあとで、しまつた! と私は急に理由もなく叫びだしてゐるのであつたが、その状態のこまかな描写は私にも無論のこと、恐らく読者にも無用であらうと思はれる。ただ一言附加へて言へば、秋子が私の不在によつて殆んど茫然と暗闇の道を帰る姿が、身を切られる思ひともなり、切なく胸にせまつてきたのだ。
 それは何故だ? 今それをきくな! 又私は答へまい。答へやうとも試みまい。恐らく明確に答へることは出来ないのだ。やがて私の行動が曲りくねつた過程のうちに何か答へるに相違ないから。実際のところを打ち開ければ、この微妙な心の動きをとりあげる差し当つての必要は毫もなかつたものである。然し、記るさねばならぬ理由もあつた! 私がやがて後章に於て起すであらう行動がこの場の心事に照らし合はせて如何にも奇怪であることよ。その秘密。すべて宿命を拒否し、しかも尚宿命のごときもののカラクリを最後に凝視めねばならぬとすれば――今は然しそれに就て語ることはできないのだ。
 私は斯様な饒舌のうちに、これから語りださうとする新らたな出来事に対して読者の興味を甚しく失はせはしなかつたかと怖れてゐる。実際
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