縛、制裁、損失!――もとより稚気満々たる英雄気取りの気負も多分にあることをひと先づ一応は認めるにしても、私は損失や制裁を世間の常識が怖れてゐるほど怖れてはゐない)三千代を捨てる全ての力があげて私の自由意志によるものであり、私は自らの憫憐の情を必ずしも不当のものとはしてゐなかつた。
私は二人の訪客をアトリヱに残して一夜遊里を彷徨し、翌日の正午すぎて帰宅したが、その日私の胸に受けた一つの必ずしも大きくはない心の動きを決して見逃してはならないのだ。三千代に対する態度の是認がかなり根柢からぐらつきだしてきたのであつた。
話は至極簡単であつた。私が帰宅すると、出迎えた妹がへきなり私に言つたものだ。昨夜|晩《おそ》く秋子が私を訪れてきた、と。別にことづけはなかつた、と。挨拶のほかに殆んど言葉を残さずに、如何なる心も読むことのできぬ平静な然し失はれた表情をして帰つて行つた、と。
私の心は忽ち顛倒する混乱の中へ投げ入れられた。混乱、自失、耳鳴、無言、無表情、化石の暫時の時間の後、私は書斎へはいり、この状態を沈めるために異常な長い放心を持続しなければならなかつた。
なんのために来たのだらう……と
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