気持にもなれなかつた。一目ぢろりと見流しただけで眼をそむけたい思ひすらした。私は部屋へ戻つて急に寝床の中へもぐりこんだ。男の愚劣な感傷が私のいい加減なポーズを揶揄するやうに思はれもし、いつぱし自分の軌道に乗つて足を踏みしめてゐるつもりのものが、砂上に柱をたてたも同然浅間敷いぐらつき方が分つたやうな惨めな自嘲がわきおこらうとするのであつた。
「てめえが泥棒にはいつた方が俺はよつぽど御愉快だ。馬鹿野郎!」私は恐らくてれかくしから金切声で怒鳴つたりした。
 ――そいつが身を切られるやうにつらいのだ。いつぱし生き生きとした自分の生き方をしてゐるやうな思ひあがつた自己満足の幽霊のやうな足のない恰好を見るがいい。それあ生きてゐる人間のすることぢやないんだぜ。死と馴れあひのあんまり惨めな人間の姿ぢやないか。死を避けられない人間の諦観からきたカラクリの一つなのだ。人間に死があるための、もはや殆んど本能と化した一つの愚劣な知的活動のたぐひであらう。そんな風にまでしてせめて生きやうといふのだが、そんな風にまで形の変つた死の姿なのだ。生きる限り生きることにひけめ[#「ひけめ」に傍点]を感じ、存在そのものに敗
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