憎まれも厭がられもせずそれとなく幾らかの分け前をくすねてゐるのが悧巧でなくてどうなるものか! つまり腹を立てると損をする、腹を立てるなといふのではなく、腹を立てるといふこともそれはそれなりに真実でもあらうが、「損をしない」といふことが尚一層の真実なのだ。と。
この反駁は大人達の誰からもよく聞くが、私はこれをきくことが実に甚だ不愉快だ。反駁の内容が不愉快なわけではない。恰もこの思想をもつて人間の最深処を突きとめたかのやうな得々とした成人ぶりが最も鼻持ちならないからだ。生憎のことに、この輩ほど坊主にも増して厚顔無恥な成人ぶりを得々然と気取る奴もないのである。
まづ第一に、人間は利己的なりといふことに、私は全く反対意見をもつものだ。いつたいどうして人々はとかく人間は利己的だときめたがるのだ? もとより近代を席捲したかの実証精神の最も栄光ある所産の一つではあるにしても、そして我々の日常の内省が最も通俗的な実証精神の鏡にかけても直接甚だ端的に利己的であるにしても、一見直ちに明瞭の如きが故をもつて、直ちにこれを真実と断ずることはできないぢやないか! 端的に明瞭なるものは時に通俗かつ浅薄を意味す
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