_経病患者を亢奮状態に落とすには酒を用ひるのが最もいいのだ。彼等がアルコールの飲用によつても亢奮した場合には、一般に最も強度の被暗示性におちこむものだよ。たとへば水に触れしめて、これに火といふ暗示を与へただけで、火傷せしめることができるほど猛烈なものだ」
 二九太は四合瓶をさげ、酒店の主人から借り受けた盃を握つて店をでたが、急に立ち止つて呟いた。
「盃でチビ/\飲ませるのは容易ぢやないな。コップで飲ます必要があるな」
 すると彼は盃を返すかはりに突然鋪道へ叩きつけて粉微塵にくだいてゐた。それから荒々しく店内へ駈けこみ「僕の必要なのはコップの方だつた」と叫んでゐたが、酒店の主人が苦笑しながら差出すコップを攫ひとつて私達の方へ大股に戻つてきた。

 目的の家へ着くと、日本心霊学協会会員証を握りしめた長平が五名の者を待たしておいて交渉のために這入つていつたが、間もなく現れて万事都合よく運んだむねを報告した。私達は煙草屋の二階の一室へ通された。娘は階下の茶の間にゐたやうであつた。約十数分の後神経病少女はその母親にともなはれて私達の面前に現れたが、この会見は僅々数分をもつて有耶無耶《うやむや》の
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