動きも、華麗な空虚をただ追払ふことだけで、勢一杯になつたのだ。
「叔父が自殺をするだらうなんて、考へられないことだ。第一、これはハッキリ断言できることだが、私と君の問題は叔父に気付かれてはゐないのだ。然し叔父を哀れな一人旅におつぽりだしておくのが気の毒だといふ理由で、君が万座へ叔父を迎へに出向く必要があるかも知れない」と、私は一語づつ噛みわけるやうな要心をもつて言ひだした。
私は話の途中から、もはや焦燥のために坐つてゐることもできなかつた。立ち上つて壁にもたれ、衝撃のために表情を忘れた空虚な女王を見下しながら、全身の注意をあつめて力の籠つた言葉をついだ。言葉の落付きにも拘らず、私の心は動揺のために、全くうはの空であつた。
「明朝万座へ出発しなさい。女中を連れて。さうすることが必要だ。、そして、数日山の湯宿に泊るのがいい。それから叔父を同道して戻つて来たまへ。出発は朝の一番上野発。仕度を急ぐ必要がある。地図や、それから旅に必要な品物を私がこれから買ひ求めて、夜の八時に君の家で会ふことにしやう。そのとき、ゆつくり話をしやうよ」
心に衝撃を受けたことと、愛人に会へたことと、その意見をはつ
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