オても私に全く思量の余地のない木曾野の爽やかな呟きが「あたしも――」と答へてゐるのが不思議な弾力をもつて耳に沁みてくるのであつた。
 五名の男女は揃つて戸外へ歩きでた。
 私はアトリヱの中に思ひがけなく三名の婦人を見出したこと、その婦人等と恐らく数時間は離れる見込みの有り得ないこと、それが然し決して不快ではないのだつた。私は誰とでもゐたかつた。群集と共に笑ひ泣き怒つてゐてもいいのだつた。そのとき私に堪えがたいものは孤独のみであつたのだ。然し私は自分自ら一団の雰囲気をかもしだしたくないのであつた。私は自分の体臭に疲れてゐたのだ。宿酔の朝のやうに、さうして人々のかもしだす雰囲気に安心しきつて浸つてゐたい思ひのみが高まつてゐた。
「南雲二九太を訪ねてみないか?」
 と私は長平に向つて言つた。彼はがくんと頷いた。
「すぐこの近所のアパートに南雲二九太といふ若い哲学者がゐるのです。貴女方がカルチェ・ラタンといふあたりの屋根裏にくすぶつてゐる変屈な若い哲学者に就いて想像したことがおありでしたら、この男が幾らか似たところがあるでせう。本を読んでゐるのか思索してゐるのか乃至は昼寝でもしてゐるのか滅多に
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