由起しげ子よエゴイストになれ
坂口安吾

 誰かの批評に、女房として不適格、とあったが、これはアベコベだ。女房に不適格な小説が書けると、この人の作品は光彩を放つだろうが、今のところは、女房小説である。
 だいたい、日本の家族制度のような国で、女房に適格な女に、ろくな小説の書ける見込みがない。
 由起さんが、女房に不適格だと自任しているかどうかは知らないが、在来の家族制度とか、社会的因習に、根強い不満を示していることは、言説に現れている。若い娘たちが空論を弄ぶのと違って、四十をこした由起さんが自分の体験を理論の裏づけにして、穏やかに、しかし相当の硬論を吐いているところは大人々々している。
 しかし、それが小説の支柱になっているかというと、そういうところも見当らなくて、由起さんの小説は甚しく感性的で、雑然としているのである。

 福田恆存が由起さんを酷評しているのは、当ったところがある。福田の批評は親切でないから、由起さんに通じないようだが、一言にして云うと、由起さんの小説は手前勝手すぎるというので、福田の気に入らないのである。
 いろんな作中人物が、主人公、もしくは作中の事件との接触の面
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