流浪の追憶
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)曾《かつ》て

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)海抜二一〇〇|米《メートル》ぐらゐ

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「(一)」は縦中横]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ふら/\と
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       (一)[#「(一)」は縦中横]

 私は友達から放浪児と言はれる。なるほどこのところ数年は定まる家もなく旅やら食客やら転々としたが、関東をめぐる狭小な地域で、放浪なぞと言ふほどのものではない。地上の放浪に比べたなら私の精神の放浪の方が余程ひどくもあり苦痛でもあつた。然しそれはこゝに書くべき事柄ではない。
 放浪といふほどでなくとも、思ひだすと、なるほど八方に隠見出没した自分の姿に呆れないこともない。然しながらどこの風景がどうであつたといふことになると皆目手掛かりのない市や町がある。それはみんな酒のためだ。
 小田原の牧野信一さんの所に暫くころがつてゐたことがある。初夏であつた。たまに海へは散歩に行つた。大概ぼ
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