電車の一ツ座席へ二人一しょに坐って来たじゃないの」
「それとこれとはちょッとちがうと思うがなア。ま、いいや。キミさえ平気なら、ぼくだって、こだわらないよ」
さて寝てみると、日野はくすぐったくて我慢ができません。八千代サンの平気じゃないのという言葉はどんなことをしたって平気じゃないかという意味のように理解せざるを得なくなりましたから、そッと手を動かして大胆に彼女のカラダにさわりましたところが、いきなり蹴とばされ、つづいて八千代サンはどッと向き直って力いっぱい日野のほッぺたを殴りつけたそうです。日野は慌ててフトンの中からとびだして洋服をきました。
「ヤだなア。キミは礼儀知らずだよ」
「礼儀知らずは、あなたよ」
「ウソだい。男が女の身体にさわりたがるのは人情じゃないか。イヤなら静かに云っとくれよ。よッぽどショッてなきゃア、そんなことできやしない。さもなきゃア、キミはよくよくガサツなんだ」
「あなたを男あつかいしてないからよ。犬か猫だと思ってるから。必ずぶち返してあげるから」
「フトン一枚かしてくれないかな」
「ここへ寝なさいな」
「そうはいかないよ。自然の情というものは人間にはあるんだから
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