くを警戒するようになっていました。それというのが、ニセ貴族を仕立てての誘拐の件がぼくの見破るところとなったことを日野の報告で知ったからです。小夜子サンが無事戻ったと知ったとき、さっそく花束をもってやってきて、これを小夜子サンに捧げて、
「おめでとう。もうセラダも当分あなたをつけまわせないでしょうから」
 なぞとお愛想を云ったのは、むろん小夜子サンをものにしようとのコンタンもあってでしょうが、小夜子サンの身を案じたのがウソではないとの言い訳も半分はあってだろうと推察され、悪党らしくない不手際にぼくはむしろ苦笑を覚えたのでした。しかしぼくが彼にしきりに対抗感を覚えるようになったのは、彼の悪党ぶりに反撥してのせいではなくて、実はやっぱり小夜子サンを彼に渡したくないとの思いつめた気持からです。セラダの時はこれほどの気持は起らなかったのです。してみると、あるいはやはり悪党ぶりへの反感であったかも知れません。奴の悪党ぶりが気に入らないのは奴の存在を知った時からです。日野のほめ方が気に入らなかったのかも知れません。とにかくぼくは日野の言動にはことごとくと云ってよいほど反感をもちたくなってしまうのです
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