に甘やかすより、こうしてキマリがついたあとで、いくらかでも利口にと世話をやく方がハリアイがありますよ」
「そうだな。たしかに、人間はそんなものだ」とトオサンは変に決然と云いました。「こうしてみんなが茶のみ友達になるんだ。こうしてみんなが。そうだとも。どうしても、がんばらなくちゃアいけねえ。人間はもともとこうしたものなんだ。だがな。これだけのものだと思うと、まちがいだぞ。一寸の虫にも五分の魂と云うじゃないか。五分の魂は虫にもあるんだ。そうだとも。がんばらなくちゃアいけないのだぞ、人間はな」
ちょッと勇み肌めいたところがタヨリなくはありましたが、それはまたちょッと神々しいものでもあったのです。悲憤のマナジリを決せんばかりの形相でした。思えば中部山脈をつきぬけて日本海へでて以来、ずッと格闘つづきのあとにまたこれですから、悪鬼とでも組打ちを辞しないほどの闘魂もあふれたろうというものです。
トオサンは改めて小夜子サンの方をふりむき、肩に手をかけたわけではないのですが充分にその心持のあふれた姿で、
「勇気が大事だよ。なア。なんでもかんでも、がんばって、がんばりぬかなくちゃアいけないや。一度や二
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