ま挫折することがなかったのを見出したからです。つまり彼自身の兵隊性を自覚せざるを得なかったのでした。
 ところが翌日の新聞に思いがけない記事がでていました。セラダと八千代サンは遠出ではなかったのです。セラダが酔っぱらッて運転していたために自動車を電柱にぶつけ、そこにでていた屋台をひッくり返して、自動車もひッくり返ったらしいのです。幸い死人はありませんでしたが、セラダは軽傷、八千代サンはやや重傷、ガラスでケガをしたらしいと想像されました。
 日野は新聞をよむと、とるものもとりあえずのていで八千代サンが手当てをうけたという病院へ行ってみました。もうわが家へ戻ったあとでした。ケガは幸い顔でなく、ノーシントーとカスリ傷で大したことはなかったのです。けれども日野が彼女の家を見舞うことを怠らなかったのは、トオサンが小坂信二を咎めた剣幕をかねて奴めも聞き及んでいることですし、これもタダメシへの義理立てと見たのはヒガメでしょうか。
 ところが日野は八千代サンの家人に甚しく冷遇せられたとのことでした。容疑者が警察でうけるような取り調べを入口でうけて、ともかく八千代サンの病室に通されることはできたそうです
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