くケダモノの生活だと小夜子サンは思いつめました。こんな理由で亭主がキライになったらさぞムザンなことだろうと思いやられますが、亭主の物理学者が並みはずれてのヤキモチヤキで、日課として肉体を要求するのもその物理的必然によるらしく、強いて別れると刃物三昧はとにかく硫酸ぐらいは当然ぶッかけられるものと覚悟をきめる必要があったようです。
 セラダがキザで無学で悪党で、どこにも取得がないので、小夜子サンの気に入りました。ヤブレカブレには手ごろでしたのでしょう。その上二世ときてはアツライ向きです。日本人同士のように過度に魂をいためなければならないような要素が少かったからです。トンチンカン以上に魂がふれあう必要がなくて、チェリオとかなんとかやってれば、それで結構憂さは忘れられました。
 小夜子サンがだんだん深間へはまりそうになったので、ここにヤブから棒にとんでもないことが突発しました。それはこれにたまりかねたトオサンが一世一代の沈思黙考のあげく実に突如として愛の告白に及んだことです。洞穴に追いつめられた敗残兵が突如として総攻撃に転じたような悲痛の様が思いやられますが、行われた現象としては必ずしもそうで
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