になっていたので、どこかで工面してきたのです。今度のは大仕事だから、と奴めハリキッていましたが、今までに比べればいくらか大仕事かは知れませんが、あの利口者の法本が日野を使う仕事だからタカが知れてるとぼくは軽くふんでいました。
 当日セラダは法本よりも先にウチへ到着したのです。表でヤケに自動車をブーブー鳴らす奴があるのです。二ツも鳴らせばわかるのに、三ツぐらいずつ五回も八回も鳴らすので、さては二世のセラダだなとぼくたちに判ったばかりでなく、鼻持ちならぬキザな野郎に相違ないと見当がついた次第です。
 そこで日野とぼくは帳場のノレンの隙間からこの人物を鑑定がてらのぞいて見ていたのですが、小柄でデップリした身体を重々しくノシノシと現したセラダは、出むかえの小夜子サンと出会いがしらに棒をのんだように動かなくなってしまったのです。
 ぼくらよくよく因業な借金とりにでもめぐり会った時でないとこうはなるまいと思いましたが、セラダは正直に口をアングリあけて小夜子サンに見とれました。
「アナ夕日本一美しいですね。ワンダフルです。ワタクシ世界中においてもアナタのような美しい人まだ見たことありません。ワタクシここ打たれました。ここ、ここ」
 と云って、胸を押えて、ピストルを二三発くらったように本当によろめきかねない状態に見えたものです。小夜子サンもさすがに真ッ赤になって物が云えません。急いで彼を用意の部屋へ案内しました。するとセラダも今度は大いにマジメくさって歩きだしましたが、右のポケットを右手で突き上げ突き上げ、お手玉を突きつづけて消え去ったのです。小夜子サンの報告によると、そのポケットの中の物はピストルで、セラダは部屋にドタンバタンと大ゲサに尻もちつくように坐りこむと、そのピストルをとりだして、うるんだような憑かれたような目ツキでピストルをなでまわしたりいじりまわしたりしはじめたそうです。小夜子サンは逃げるように立ち去ってきた様子でした。
「挨拶もしないうちにね。なんのツモリでピストルいじりだしたのかしら」
「挨拶は入口ですんだじゃありませんか」
 と日野が失礼なことを云って小夜子サンを茶化したものです。
「ぶたれました、ここ、ここ、だって云やがらア。ピストル様のもので射たれましたというシュルレアリズム的表現かも知れねえな。たぶん前後不覚なんだ」
 彼はこう云ってキャッという卑しそうな
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