を折ってやりたいものだと考えていた。
★
城下町から三里ほど離れたところに由利団右衛門という分限者《ぶげんしゃ》がいた。どれくらいの大判小判を持っているか見当がつかない。一枚ずつ並べると海を渡って佐渡までとどいて島を七巻きするそうだという話である。代々の殿様は勝手許不如意の時には代々の団右衛門から金をかりる。決して返すことがないが、借金というのである。家老なども密々借りにくることがある。だから別に威張りもしないが、大そう格式を持っている。
団右衛門の愛妾のオトキというのが同じ村に立派な妾宅を造ってもらって莫大な財産を分けてもらったが、年ごろの一人娘がいるだけで、男の子がいない。そこで聟をさがしているが、本宅にくらべれば百分の一ほどの家屋敷財産とは云え、旦那様の来遊ヒンパンな妾宅だから、数寄をこらし、築山には名木奇岩を配し、林泉の妙、古い都の名園や別邸にも劣らぬような見事なもの。お金だって千両箱の五ツぐらいは分けてもらっている。けれども妾宅のことだから、身分のあるところから養子を貰うわけにいかない。
ところがオトキという妾が利巧者で、妾などというものでも人が
前へ
次へ
全26ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング