。悪侍の親玉は手の立つ奴と見えて、片手はフトコロ手をしたまま、片手の刀でジイサンをあしらッている。ジイサンはジタリジタリ脂汗をしたたらせて顔面蒼白息をきらして後退する。他の十名は笑いながらジイサンがナブリ殺しにされるのを見物しているところであった。
「へ。どうも。お待ちどう。しばらくでござんす」
と云って、鼻介が刀と刀の間へわってはいると、悪侍の親玉は目をむいて、
「なんだ。キサマは」
「へ。左様でござんす」
「何者だ」
「へ。豆腐屋でござんす。コンチは御用はいかがで」
「コノ無礼者め」
悪侍の親玉はカンカンに立腹して抜く手も見せずと云いたいが、もうチャンと抜いている。そのままの位置では斬るにも突くにもグアイの悪いところへ鼻介が立っているから、エイッとふりかぶって一刀のもとに鼻介を斬り伏せようとする。とたんに後へひッくりかえって、刀をふりあげたまま、ドタリと倒れてムムムとのびてしまった。鼻介の足が急所をチョイと蹴ったのである。
のこった十名の悪侍が、生意気な下郎めと刀を抜き放って迫ったから、十人にとりまかれては一大事。アバヨ、と逃げる。その足の速さは青梅村の百兵衛だって遠く及ばな
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