へ通う道に当っているから、一同は仕度をととのえて鎮守様の社の前に集り、また村中にふれをだして、
「オーイ。面ッ白《シ》ェことになるれ。みんな早う、来いや、来いや」
人々をよび集めて、鼻介の通りかかるのを今か今かと待っている。
鼻介が通りかかった。アンニャの総代が走って行って、
「オーイ。鼻介」
「何を云やアがる。唐変木め。口のきき方も知らねえ野郎だ。又、物は相談だが、じゃアあるめえな」
「アハハ。今日はチョッコリ仲間にはいって貰いてもんだが」
「バカヤロー。てめえ達の仲間にはいっていられるかい。こッちは忙《せわ》しいんだ。顔を洗って出直しやがれ」
「そういうワケには、いかねえな」
「なにが、いかねえ」
「オレがきいたところでは、ンナはたしか剣術を使うことが上手らという話らッたが」
「モタモタ云やアがるなア。日が暮れるぞ、ほんとに。剣術を使うが、どうした」
「ちょうどンナにいいことがあるて。ンナも知っているだろうが、十里四方にキッツイモンは誰かと云うと、みんなが四人の名をあげるな。鬼光、海坊主、米屋のアンニャ、それから飛作の四人の野郎だて。ンナには気の毒の話らが、ンナの名をあげる者は誰もいねな。さて、四人のいッちキッツイ野郎は誰らという話になると、それが困ったことには、術の種類が違うがんで、野郎どもの顔が一度も合うていねもんだ。オレはアレがいッちキッツイ。ウソこけ、コレらは。もうはや喧嘩になって仕様がねもんだ。そこでオレの村ではみんなが相談して、そんげのことで毎日みんなの者が喧嘩していたがんではいけねから、四人の野郎に来てもろて勝負をつけてもろたらよかろ。タダで頼むわけにもいかねから、いッちキッツイ野郎には金の十両もくれてやれば、あの野郎どものことら、大喜びで勝負つけよてもんだ。さて、そういうことに話がきまって、今日が勝負をつける当日らて。ンナもいいとこへ通りかかったもんだわ。ンナが通りかからねば、誰もンナみてな馬鹿野郎を思いだす者はいねがんだが、ンナの姿を見たもんだ。あの馬鹿野郎も自慢こいて威張ってけつかるがんだが、入れてみれ、面ッ白《シ》ェわ。そうら、そうら、てがんだ。それでオレがンナをよびに来たのらが、オレの本気を云えばンナは仲間にはいらね方が利巧らな。ンナにはとても十両の金はとれぬし、くらすけられて目をまわすのはまだいいが、ノビてしもて息を吹き返さねと来た
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