及ばず。これは大変な掘り出し物だ」
 家老は呆れて、それからようやく驚いて、それからようやく感心して、それから我にかえった。
 彼はさッそくミコサマを城へつれて行って殿様に披露した。真庭念流の石川淳八郎が立合ってみると、とても、とても、問題にならない。もともと、ナギナタと刀では、現在の剣士に立合わせても、女の子のナギナタの方が勝つ公算が大きいのである。しかしミコサマの手錬は話の外だ。
 直ちに召抱えられてナギナタ師範になる筈であったが、天狗様の神事をうッちゃるわけにいかないから、ミコサマの職のまま村に止ることになり、心ある武士の娘が出かけて行って習うことになったのである。
 キンカの野郎のアネサもミコサマの手錬の凄味がつくづく分ったから、
「オラ、死なねで、ホンニ、よかったれ。オッカネ。オッカネ」
 と、それからはいくらか怠け癖も治ったということである。



底本:「坂口安吾全集 11」筑摩書房
   1998(平成10)年12月20日初版第1刷発行
底本の親本:「別冊文藝春秋 第一九号」
   1950(昭和25)年12月25日発行
初出:「別冊文藝春秋 第一九号」
   1950
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