の見違げえだッたと言うだろが。ミコサマが舞うている時目エつけたのはキンカの野郎のアネサのがんだわ。その時ンナがアネサの横に居たがんだ。ミコサマが一舞いクルリと振向いた時、ンナがアネサの前にのさばって出て居たろが。そらすけ、ミコサマが取りまちがえてしもうたがんだわ。ミコサマはンナに言うたろが。ンナことをアンニャのヨメにもろうたのは、かえすがえすもオレのマチゲエであった。ンナとキンカの野郎のアネサは入れ代らねばならね。ンナはミコサマにはなれねえジャベであるから、キンカの野郎のアネサにたのんで来てもろえ。この村にジャベは一パイ居るけれども、ミコサマたるべきジャベはあのアネサのほかには居ねがんだ。そう言うたろが。オレが死んだら、ンナはキンカの野郎のアネサのとこへ行かねばならぬ。そうして、キンカの野郎のアネサに来てもろてミコサマになってもろて、ンナはその代りにキンカの野郎のアネサにしてもろえばええがんだ。そう言うたろが。ンナそれ聞いていたねッか。この野郎。ンナ、どういうわけでキンカの野郎のアネサのとこへ行かねがんだ。コラ。どうら。キンカの野郎のアネサと云うがんはオレのことらわ」
ミコサマはとんでもないインネンをつけられて弱った。
「お母さんはそんなこと言わなかったわよ」
「この野郎ゥ」
「あなた、そんなこと、誰から聞いたの? 誰がそんなこと言ったのよ」
「この野郎ゥ。よウし言わねな」
キンカ野郎のアネサは歯をバリバリかんで口惜しがった。しかし分別深げに、ジックリとうちうなずいて、
「ようし。わかった。ンナ、どうしても、ミコサマの位を盗もてがんだな。ンナがその気らば、オレもカンベンしね。ンナ、ミコサマになろてがだば、ナギナタできるろ。そうらろが。できねばならねもんだろが。ンナがミコサマの位盗もてがんだば、ンナはオレにナギナタの試合して勝たねばならんど。ンナ、オレを打ち殺さねば、ミコサマにはなれねわ。オレの目玉の黒いうちは、ンナ、ミコサマになれねど。あしたの朝、まら皆んなの起きね時、オレがここへナギナタ持って来るすけ、ンナもナギナタ持ってこい。ンナが勝つか、オレが勝つか。どッちか一人は死なねばならんど。ンナがミコサマの位盗もてがんだば、オレを殺さねばなれねがんだ。わかったか」
とうとう二人は明朝太陽の登る時刻に、ホコラの前でナギナタの果し合いをすることになった。
馬吉のオ
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