、私はジュンプウ良俗に裁かれることを意としない。私が、私自身に裁かれさへしなければ。たぶん、「人間」も私を裁くことはないだらう。

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 私はこゝまで書いてきて、やめるつもりであつたが、余はベンカイしない、などと云つて、結構ベンカイに及んだ形であるから、憤然として、ペンを握つた。
 今はもう、夜が明けるところです。私は目下、長篇小説に没頭してゐるのだ。だから約束した諸方の原稿を全部お断り願ひ、延期していたゞいたといふ次第なのに、朝日評論のO先生だけ、頑として、実に彼は岩石です。女の子も、これほどツレないものではない。おかげで私はヒロポンをのみ、気息エンエン。氏は実に二日目毎に四回麗人の使者を差向け、最後に、遂に、氏自ら現れて脅迫されるに及んで、私も泣いた。これ実に本日白昼の出来事です。大悲劇です。
 私は聖徳太子ではないのだから、頭は一つ、手は一本(ペンを握る手はですよ。両手はきかないよ)昨日は昨日で、東京新聞のタロちやんなる重役先生が何食はぬ顔をして、余の仕事ぶりを偵察にきて、エヘラ/\帰つて行つた。私も遂に探偵につきまとはれる身となつて、近頃は心臓が心細くて仕
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