]もこれだけの仕事をしたんだから、死んだつていいぢやないか!」
へこ帯の中へ首をつき込む時、もし何か呟いたことがあるとすれば、それだけの呟きしか私には考へられない。彼は自分に憑かれ通して死んだのだ。私にはその明るさしか分らない。
私はお通夜の夜、小田原の街で酔ひながら谷丹三に向つて牧野さんの悪たれ口をたたいた。「死んだつて驚くもんか! 然しあいつを死に易くした一つの理由は、彼の最近のインポテンツの傾向だよ」谷丹三も賛成した。そして私は敬愛する詩人の一生の祝典のために乾杯することのほかに考へられるものがなかつた。それは私の強がりではない。私は彼の純粋さには徹頭徹尾敗北だ。とても私は死ねないのだ。
(附記) しんみりと重々しく書きつらねる気持にならないので、(なんべんも書きだしたのをみんな破つて)少し呑み一気に書きまくつた。文章が非常に雑なことだけ分る。然し言つてゐることは、私の今のほんとのものだけ思ひつく通り書きなぐつたのだ。もつと書かなければならないのだ。然し今はそれにふさはしくない私の状態だ(これは牧野さんの死に関係がない)。もつと気持が落附いたら、牧野さんに関するそして私の思
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