白に語る通り、彼の一生の文学が自殺を約束された、自殺と一身同体の、文学だつたと見なければならない。
一八五五年一月二十五日巴里で一人の牧野さんが首をくくつて死んだ。ゲラル・ド・ネル※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ルがそれである。彼の絶筆となつた小説はオレリヤ(別名・夢と人生)で、「夢は第二の人生である――」といふ書き出しに始まる彼の生と知性との宿命的な分裂を唄つた傑作だが、テオフィル・ゴオチエによれば、ネル※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ルの死は「夢が人生を殺した」のであつた。牧野さんまた然り。二人はともにゲーテの熱読者であつたのは奇縁だが、牧野さんは恐らくネル※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ルの名前すら知らずに死んだ。
その深夜ネル※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ルは泥酔して行きつけの飲み屋を叩いた。飲み足りなかつたらしい。飲み屋は店を閉ぢたところだつたので、ネル※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ルにねばられるのが厭だつたから戸を開けやうとしなかつた。「ええ、ままよ」そんなことを呟いて彼の遠距《とおざ》かる跫音《あしおと》がしたが、翌朝行人によつて、そ
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