毎日何本飲んでくるか」
「僕は酒なんか飲まないですよ。焼芋を食べるだけですよ」
「フーム。オデン屋で焼芋を売るのか」
「いゝえ。姐さんが毎日たべるのです」
「いくらで売るか」
「タダですよ。本を持つてくれば幾つでも食べていゝと言ふのです」
「こんなに暗くなるまで焼芋をたべてゐるのか」
「いゝえ。お風呂へ行つてくるから留守番をしろと言ふものですから、それに僕は近頃憂鬱ですから、店へ帰りたくないです」
「あたり前だ。店の本をチョロまかして焼芋を食はされた時には人は誰でも憂鬱になるものだ。アッハッハ。これは面白い。よろしい。その店へ案内しろ。我々は本を差上げて酒を飲もう。お前は本を担いで行け。姐さんはどういふ本が好きか」
「それは純文学ですよ」
「ナニ。純文学か?」
「えゝ。低級な小説は読まないですよ。とても教養が高いです。僕がジッドやヴァレリイを選んでやるから、お前は目が高いと言つてゐるですよ」
「なるほど、お前は目が高い。本屋の小僧には惜しい男だ。アッハッハ。これは耳よりな話があるものだ。オイ、三平、我々は婚礼をやめて、文学オデン屋へ出掛けようや。世の中の片隅には飛んでもない処が在るもの
前へ 次へ
全25ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング