オレにも、同じように鄭重《ていちょう》に挨拶した。ひどく落附いた奴だと思って薄気味がわるかったが、その後だんだん見ていると、奴はオハヨウ、コンチハ、コンバンハ、などの挨拶以外には人に話しかけないことが分った。
オレが気がついたと同じことを、青ガサも気がついた。そして彼はチイサ釜に云った。
「オメエはどういうわけで挨拶の口上だけはヌカリなく述べやがるんだ。まるでヒタイへとまったハエは手で払うものだときめたようにウルサイぞ。タクミの手はノミを使うが、一々ハエを追うために肩の骨が延びてきたわけではあるまい。人の口は必要を弁じるために孔があいているのだが、朝晩の挨拶なんぞは、舌を出しても、屁をたれても間に合うものだ」
オレはこれをきいて、ズケズケと物を云う青ガサがなんとなく気に入った。
三人のタクミが揃ったので、正式に長者の前へ召されて、このたびの仕事を申し渡された。ヒメの持仏をつくるためだと聞いていたが、くわしいことはまだ知らされていなかったのだ。
長者はかたえのヒメを見やって云った。
「このヒメの今生後生をまもりたもう尊いホトケの御姿を刻んでもらいたいものだ。持仏堂におさめて、ヒメ
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